プロ野球は『延長なし』でどう変わる? 及ぼす影響を考察してみた
2021年は、コロナウイルス拡大防止の観点で、延長戦がなくなりました。
9回終了時に決着がつかない場合、引き分けになります。
これによって、何かに影響はあるのか、ないのか。
あるとしたら、どこにどの程度の影響があるのか。
どう考えても、『まったく影響なし』は考えづらいと思います。
1試合あたりを見てもそうだし、143試合全体を見ても影響はありそうです。
では、どういう変化や影響がありそうなのか、それを考えてみたいと思います。
ちなみに、『延長ナシ、なんて野球の面白みがなくなる』だのどうのこうの論じられている方もおられるようですが、これは社会情勢に合わせたルール変更なので、『延長ナシが是か否か』を論じるのはナンセンスだと思っています。
このルールはそのまま受け止めて、これがどういった影響を及ぼすのかに焦点を絞って考察してみましょう。
『延長なし』が戦術面に及ぼす影響
まず思いつくのは、控え選手の積極起用です。
各チームとも打つ手が早く、ベンチワークが活発になりそうです。
特に投手に関しては、顕著になりそうです。
今まではあと何イニングやるかわからない延長戦を考慮して、控え選手を残しておく必要がありました。
9回で打ち切りということになれば、延長を見越して選手を温存しておく必要はなくなります。
となれば、代打や代走の切り札、守備固めなどの起用のタイミングは早くなると思います。
リリーフ投手も積極的につぎ込めます。
さらに言えば、勝ちパターンの継投を早めにできるとなれば、中盤までにリードを奪わると苦しい展開になるので、余計に仕掛けが早くなることも考えられます。
裏の攻撃側は『絶対に打席が回ってこない打順』の逆算がしやすくなります。
投手や自衛隊(打力がなく守備力が高い選手)を遠い打順に入れておけば、代打を温存する必要がなく、野手を他で使い切ることができます。
同様の考えに基づき、パ・リーグではDHの解除もバンバン行えそうです。
『延長なし』がチーム成績に及ぼす影響
2つ目に思いつくのは、引き分けの数が増えそうだな、という予想です。
これも、誰が考えても思いつくことだと思います。
去年まで『延長戦の末に決着がついた』となっていた試合は、すべて引き分けで終わってしまいます。
まして、1つ目で書いたように、競った試合の終盤は各チームとも勝ちパターンの継投を惜しみなく使うため、終盤は試合が大きく動かなくなるようになるかもしれません。
そうすると、ますます引き分け増加に拍車がかかりそうです。
ちなみに、引き分けが増えると順位に影響があります。
どう影響があるかは、勝率によって異なります。
ここで、『引き分け数が違うけど貯金(借金)数が同じ』という2チームが並んだとき、どちらのチームが上の順位になるかを示します。
勝率が5割を超えている場合・・貯金数で並べば、引き分けが多いチームの勝率が高くなる。
勝率が5割ちょうどの場合・・・引き分けが多いチームは勝利数が少くなり順位が下になる。
勝率が5割を下回る場合・・・・借金数で並べば、引き分けが多いチームの勝率が低くなる。
このように、引き分けの多寡は、勝率5割を境に、有利になったり不利になったりします。
勝率が高くなる、低くなる、は野球のルールではなくて単純に数学の問題です。
優勝を狙うチームにとって、引き分けは『残り試合数を減らす』だけでなく、勝率の観点からも価値がありそうです。
優勝ラインが5割を切るのは考えにくいので、首位のチームは貯金の数で並ばれても引き分け数で上回ればいい、と考えればいいことになります。
わずかな勝率の差異の積み重ねが、優勝の行方を左右する可能性もあります。
『延長なし』が記録に及ぼす影響
9回で打ち切りになった分、前年と比べて1年間の総イニング数は各チームとも減ります。
守るイニングも攻めるイニングも減るということです。
守るイニングが減るので、投手は投球回数が、野手は守備機会が減ります。
ということは、それに伴って奪三振数なんかも減るはずです。
野手なら捕殺、刺殺、併殺、失策といった数字が減りそうです。
また、決着がつかない試合は『勝利投手』『敗戦投手』がいないので、勝利数も減りそうです。
同じ理屈だとセーブも減るはずですが、こちらは前述のように全体的に戦術が変わるため、何とも言い難いところです。
ちなみに、守るイニングが減るからといって、登板数まで減るかというと、そうとは言い切れません。
前述のように各チームの選手起用は積極的になることが予想されるので、必ずしも起用人数が減るかどうかはわかりません。イニングが減った分、1/3回ずつの小刻みな継投になるかもしれないからです。
打者で言えば、攻撃のイニングが減ることで、打席数が減ります。
そうなると、安打、本塁打、打点、得点、盗塁などすべての数字は減少傾向に向かうと見られます。
延長イニングがあれば生まれていたかもしれないホームラン、あったかもしれない盗塁などの可能性が消えてしまうわけです。
『延長なし』で消える打席数なんてほんのわずかだと思うかもしれませんが、『あと1イニングあればアイツにもう1打席回るのに』という惜しいシーンがあると、歯がゆく感じそうです。
まとめ
思えば、2011年にも似たような変化がありました。
このときは東日本大震災による電力不足への対応で、延長戦に関するルールが急きょ変更されました。
あの時は3時間半ルールで、「試合開始から3時間半を超えた場合、新たな延長回に入らない」というものでした。
今年はそれ以上の措置なので、もっと目に見えた変化が顕著に現れるはずです。
当時、中日ドラゴンズなどは積極的に引き分けを増やしているように見えるシーンがありました。
最終的に大逆転優勝しているのだから、落合監督の戦略が成功したと言えそうです。
開幕直前の突然のルール変更だったのに、それにすぐ合わせて戦術を変えるなんてプロの監督だなあと感心したことを覚えています。
あれから10年経った2021年のシーズン。
『延長なし』というルール変更に対して、各チームがどのように戦術を変えるのか。
プロの監督が見せる戦術、戦略を楽しみにしています。
以上、『プロ野球は『延長なし』でどう変わる? 及ぼす影響を考察してみた』でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。