ポスティング制度の内容や課題をまとめてみた

2022年1月23日

おはようございます、元応援団員のハルカです。


毎年オフになると、メジャーに挑戦する日本人選手が話題になります。

トップ選手にもなれば、世界最高峰で自分の実力が発揮したくなるのでしょう。

また、ファンにとっても、応援している選手が世界を相手に活躍する姿を見たい気持ちもあります。

メジャー挑戦は夢があり、ファンをワクワクさせてくれます。


ただ、誰でも簡単にメジャーに挑戦できるわけではありません。

『野球の実力』という面でもそうですが、それ以外に『制度』の面でもそうです。

制度上のハードルは意外と高く、誰でも簡単にメジャー移籍できない仕組みになっています。


日本人選手がメジャーに挑戦しようとしたら、『ポスティング』と『海外FA権』のどちらかを利用するケースがほとんどです。


この『ポスティング』と『海外FA権』という言葉はだいぶファンのあいだに浸透していると思います。


『海外FA権』は、国内外のすべての球団と自由に交渉できる権利です。

選手が長年活躍することで手にできる権利です。

この『海外FA権』に関しては、権利の取得条件は少しややこしいものの、制度のしくみはわりかし簡単なので、広くみんなが理解しているところだと思います。


一方、『ポスティング』はどうでしょう。

言葉はよく聞くけど、具体的にはどのような制度なのでしょうか?

おそらく、『ポスティング』という単語の認知度はあるものの、正確な内容はあまり知られていないのが現状ではないかと思います。


そこで今回は、ポスティング制度の概要と変遷、過去の移籍例、さらにはポスティング制度の課題なんかについて、取り上げてみたいと思います。




ポスティング制度とは

ポスティングシステムとはどんな制度なのか、内容をみてみましょう。


ポスティング制度の概要

日本の球団に所属するプロ野球選手が、米国メジャーリーグへ移籍するための制度です。

入札制度という意味があります。

この制度は、日本野球機構とアメリカメジャーリーグ機構との協定に基づき、1998年12月に導入されました。

選手の保有権を持つNPBの球団が、選手の保有権をMLB球団に譲渡する形をとります。

申請手続きは、選手本人ではなく、所属する球団が行います。

したがって、所属球団から承諾を得ないことには、この制度を利用することができません。

過去に、イチロー選手、松坂大輔投手、ダルビッシュ有投手などがこの制度を利用してメジャー球団に移籍しています。


ポスティング制度の流れ

まず、ポスティング制度の申請について、球団が合意するところから始まります。

いくら選手が『ポスティング制度を利用したい』と言っても、球団が合意しなければ何も始まりません。


所属球団は、譲渡金の金額を設定します。

上限は2000万ドル。

メジャー球団は、その金額での獲得の意志を示すと、選手と交渉することができるようになります。

複数球団が獲得意志を示すこともあります。

その場合、選手はそのすべての球団と交渉できます。

複数球団の条件を比較して、移籍先を選ぶことも可能です。

つまり、『入札制度』と呼ばれているものの、じっさいは入札制度の形式ではありません。

これは、かつて本当に入札制度だったときのなごりで、現在も『入札制度』と呼ばれているだけです。


交渉は、選手とメジャー球団が直接行います。日本の所属球団は、ノータッチです。

交渉により契約条件が合意されたら、移籍が成立します。

契約が合意すると、メジャー球団は所属球団に譲渡金を支払います。


ちなみに、日本の所属球団がポスティングの申請ができるのは、11月1日から翌年2月1日までです。

選手とメジャー球団が交渉できる日数にもリミットがあります。

所属球団がポスティングの告知手続きを行った翌日から、30日間が交渉期限です。




ポスティング制度の変遷

次に、この制度の変遷をみていきます。

初めから現行の制度だったわけではなく、何度か運用が見直されて今日に至っています。


導入~2012年

導入のきっかけになったのは、1995年の野茂英雄投手のメジャー挑戦でした。

野茂投手はFA権をもっていなかったため、メジャー挑戦ができませんでした。

そこで、任意引退という形を取って近鉄を退団し、そこからメジャー挑戦を果たしました。

ちなみに、現在このやり方をやろうとしたら、引退時の所属球団の承認が必要になります。


2年後に、今度は伊良部秀輝投手もひと騒動起こしながらメジャーに移籍しました。


こうした日本人選手の立て続けの移籍がきっかけとなり、1998年に『日米間選手契約に関する協定』が調印され、『ポスティング制度』が創設されました。


このときは、メジャー球団が、独占交渉権を入札で獲得する『封印入札方式』で運営されていました。

オークション形式でもなく、一発勝負の入札形式です。

最高額を示した球団のみが、選手との独占交渉権を獲得します。

この形式によって、13人の選手が日本からメジャーに移籍しました。


このときのやり方に、いくつか問題点がありました。

最大の問題点は、『選手は1球団としか交渉できない』という点でした。

単独交渉のデメリットはいくつかあります。

・選手が球団を選択する自由がない

・公正な競争の原理に基づいて決定できず、選手にとって一方的に不利な条件を飲まされる可能性がある

・本当はその選手を獲得する意思がないのに、高額入札して独立交渉権を獲得し、交渉を不成立に終わらせる可能性がある(ライバル球団の妨害が目的)


また、『30日以内に交渉不成立の場合は、次のオフまで申請できない』ことで、余計に足元を見られやすくなっていました。


このように、ポスティング制度には、日本人選手に不利と言える要素がありました。


一方、メジャー球団側にもデメリットがありました。

それは、落札額の高騰化です。

当時は落札額に上限はありませんし、1位入札と2位入札の金額に大きな差があっても1位入札球団は入札した金額を払わないといけません。

たとえばダルビッシュ有投手の落札額は約5170万ドル。

これは、当時の為替レートでだいたい40億円弱というかなりの高額でした。


そして2012年、ついにメジャー側は「日米間選手契約に関する協定」を破棄します。

そのため、ポスティング制度は一時的に失効してしまいました。


2013年~2017年

一時的に破棄されていた「日米間選手契約に関する協定」は、2013年に再度締結されます。


新しく締結された協定では、ポスティング制度の内容の一部が見直されました。

・選手の所属球団が譲渡金額を設定する(2000万ドルが上限)

・獲得を希望するすべてのメジャー球団が選手と交渉できる


新システムでは、入札形式がなくなりました。

選手にとっては、球団を選択する余地ができ、交渉の幅が拡がりました。

さらに言えば、『ライバル球団の妨害目的』で入札する球団がなくなったため、交渉が不成立になる可能性も低くなりました。


メジャー球団にとっては、上限が抑えられたことで、いたずらな相場の上昇が防げました。

また、上限があることで、ポスティング市場に参戦できる球団も増え、戦力均衡のバランスを保てる可能性が高くなりました。


日本の球団は、上限額が設定されたことで、多少はおもしろくない思いをしたかもしれません。

さらに言うと、選手に値段をつけて市場に売りに出すような形になるので、球団側は『選手で商売している』という風な見方をされるようにもなります。

また、評価に見合わないような高額設定をしてしまうと『入札ゼロ』という事態を招いてしまうので、そのあたりの金額の見定めにも一苦労しそうです。


2018年~

2018年オフ、ポスティング制度はさらに変更されました。


2017年オフまでは、譲渡金の上限は2000万ドルでした。

これが、『当該選手の契約内容の総額によって変動する』という仕組みに改定されました。


この内容を具体的に書くと、ちょっと複雑です。


まず、『契約内容の総額』ですが、これは契約金、年俸に加え、契約解除(バイアウト)が含まれます。

次に『変動する』ですが、2500万ドルまでは20%、2500万ドル~5000万ドルは17.5%、5000万ドルを超えた部分には15%を掛けた額を合わせて算出する、となっています。

また、出来高払いを獲得した場合は、その額の15%が追加譲渡金として加算されます。




海外FA権との違い

『ポスティング』と『海外FA権』の違いはなんでしょう。


選手にとっては、メジャーに挑戦できる時期が早いか遅いかの違いがあります。

基本的にみな1年でも早くメジャーに行きたいと考えるのが当然です。

しかし、海外FA権の取得には一定の年数が必要となります。

権利獲得まではメジャー挑戦を我慢しなければいけません。

それまでに大きなケガに見舞われるリスクもあるし、選手としてのピークが過ぎてしまう可能性もあります。

一方のポスティング制度は年齢や年数の縛りがないため、球団さえ認めてくれればこのオフにでもメジャー挑戦ができます。


所属球団にとっての最大の違いは、球団への見返りの有無です。

ポスティングでの移籍となると、所属球団は譲渡金を得ることができます。

一方、海外FA権を行使して移籍した場合、所属球団には何のメリットもありません。

国内移籍であれば、移籍先球団から補償がありますが、海外の場合はそれもありません。


ポスティングシステムでの移籍を頑なに拒否していた球団が、数年後に態度を軟化させてポスティング移籍を認めるケースもみられます。

これは、該当選手の海外FA権の取得が徐々に近づいていることを頭に入れたうえで、球団側が損得勘定を働かせているのだろうと思います。




過去の利用者

過去にポスティングシステムを利用してメジャーに挑戦した選手をリストアップしてみました。

(2021年11月現在)


成立したケース

まずは、ポスティングが成立したケースを見てみます。(落札金額は米ドル)


封印入札方式

1998年 アレファンドロ・ケサダ(広島 → レッズ) 約40万

2000年 イチロー (オリックス → マリナーズ) 約1313万

2001年 石井一久 (ヤクルト → ドジャース) 約1126万

2002年 ラモン・ラミーレス (広島 → ヤンキース) 約30万

2003年 大塚晶文 (中日 → パドレス) 30万

2004年 中村紀洋 (近鉄 → ドジャース) 金額は非公表

2005年 森慎二 (西武 → デビルレイズ) 75万

2006年 松坂大輔 (西武 → レッドソックス) 約5111万

2006年 岩村明憲 (ヤクルト → デビルレイズ) 450万

2006年 井川慶 (阪神 → ヤンキース) 約2600万

2010年 西岡剛 (ロッテ → ツインズ) 約533万

2011年 青木宣親 (ヤクルト → ブルワーズ) 250万

2011年 ダルビッシュ有 (日本ハム → レンジャーズ) 約5170万


譲渡金額を所属球団が設定する方式

2013年 田中将大 (楽天 → ヤンキース) 2000万

2015年 前田健太 (広島 → ドジャース) 2000万

2017年 大谷翔平 (日本ハム → エンゼルス) 2000万

2017年 牧田和久 (西武 → パドレス) 50万


選手年俸総額・譲渡金連動方式

2018年 菊池雄星 (西武 → マリナーズ)

2019年 筒香嘉智 (DeNA → レイズ)

2019年 山口俊 (読売 → ブルージェイズ)

2020年 有原航平 (日本ハム → レンジャーズ)


非成立のケース

非成立だったケースも振返ってみましょう。


封印入札方式

1998年 ティモニエル・ペレス(広島)

2002年 大塚晶文 (近鉄)

2005年 入来祐作 (日本ハム)

2008年 三井浩二 (西武)

2010年 岩隈久志 (楽天)

2011年 真田裕貴 (DeNA)

2011年 中島裕之 (西武)


譲渡金額を所属球団が設定する方式

2015年 トニー・バーネット(ヤクルト)


選手年俸総額・譲渡金連動方式

2019年 菊池涼介(広島)

2020年 西川遥輝(日本ハム)

2020年 菅野智之(読売)




ポスティング制度の課題

最後に、ポスティング制度の課題を見てみましょう。


2012年までの『入札』だった頃は、多くの課題がありました。

・選手が球団を選べない

・1球団としか交渉できないので、選手側にとって交渉が不利

・ライバル球団の妨害目的で入札する球団がいた場合、交渉が不成立にされてしまう

・譲渡金が高騰し、メジャー球団の経済的負担が大きくなる

・譲渡金が高騰し、市場に参戦できる球団が限定され、戦力の均衡化が図れない


これらは、現行制度ではほとんど解消されたと言ってよさそうです。

特に、日本人選手側が不利となるような課題は、なくなりました。


では、現行制度における最大の課題は何でしょうか。

それは、『所属球団が認めないと利用できない』ということになりそうです。


まあ、そもそも、海外FA権をもたない選手がメジャーに挑戦するということ自体、本来は選手にとって虫のいい話なのかもしれません。

問題なのは、ポスティング制度に対する姿勢が球団によってまったく違うという点です。

海外FA権であれば、選手は自分のタイミングで行使できます。

ポスティング制度は、容易に承認する球団もあれば、頑なに承認を拒む球団もあり、選手にとって不平等感を抱いてしまいかねないという問題があります。


このあたりは、球団の姿勢とか事情に深く関わる部分なので、部外者がどうこう言えることでありません。

しかし、ドラフトで球団を選べないのに、所属球団によってメジャー挑戦が早まったり遅くなったりというのは、選手にとっては厳しい現実かもしれません。


ただ、近年は多くの球団がポスティング制度を利用するようになりました。

あれだけ否定的だった読売も態度を軟化させ、山口俊投手をメジャーに送り出しました。

今後は、そうした球団間による不平等感もなくなっていくのではないかという気がしています。




まとめ

多くの日本人選手がメジャーに挑戦するようになり、ポスティング制度は欠かせないものになりました。

ポスティング制度は、選手、日本の球団、メジャー球団それぞれにメリットがあります。


選手にとっては、海外FA権の取得を待たなくていいことが最大のメリットでしょう。

日本の球団にとっては、莫大な譲渡金を手にすることができます。

メジャー球団にとっては、優秀な日本人選手を、上限額が設定された範囲内で獲得できます。


しかし、この制度が多くの問題点を抱えているのも事実。

何度も大幅な見直しがされたことが、それを物語っています。


今後も、メジャーに挑戦する選手は次々に現れそうな見込みです。

ポスティング制度が、選手、日本の球団、メジャー球団の3者にとって、さらによい制度になることを望みます。

また、日本のトップ選手がさらに海外で活躍することを、ファンの一人として応援したいと思います。


以上、『ポスティング制度の内容や課題をまとめてみた』でした。

最後までお読みいただきありがとうございました。